追悼・大木実

 大木 実さん(おおき・みのる、本名池田実=いけだ・みのる、俳優)30日午前4時ごろ、すい臓がんのため東京都大田区の病院で死去、85歳。大阪市出身。葬儀は親族のみで済ませた。喪主は俳優で三男の大木聡(おおき・さとし、本名池田聡=いけだ・さとし)さん。
 撮影所の照明助手から俳優に転じ、51年に映画「あゝ青春」でデビュー。サスペンス、任侠(にんきょう)物から恋愛物まで幅広いジャンルの役をこなし、代表作に「張込み」の刑事役がある。このほかの出演作に「路傍の石」「黒蜥蜴」「人生劇場・新飛車角」など。テレビでも時代劇を中心に活躍した。(時事通信




大木実と言えばやはり「張込み」。
橋本忍脚本の名作。実に橋本忍らしい作品。

逃亡中の殺人犯が来るかもしれないからと、犯人のかつての恋人(今は別の男の後妻)の家を、向かいの旅館で張り込む刑事2人の1週間の物語。

地味な張り込みを、犯人が来ない間どう見せるか、そこが脚本家の腕の見せ所だが、
そこは構成の橋本と言われるだけあって、張り込みの合間に大胆な回想を入れてくる。

回想は主にこの事件の経緯なのだけど、続いて、張込みの若い刑事(大木実)の抱えている問題を描く。付き合っている貧しい彼女を取るか、それとも結婚を勧められてる若い女を取るか、みたいな。

そうやって、男女の問題を入れ込むのだが、もう一つ、重要な男女の問題があって。
それは、この作品で橋本忍が最も描きたかったこと。

この作品、もとは松本清張の短編なのだけど、橋本忍は原作ものを脚色する時、原作の、一番いいただ一点のみに絞って脚色するのだという。「砂の器」もそうだったし、この「張込み」もきっとそう。

そしてそのただ一点とは、ラストにあるこれではあるまいか――

「この女は数時間の生命を燃やしたにすぎなかった。」

ただ、この一文を生かすためだけの、映画116分。
平凡な主婦が、いつ、どうやって命を燃やしたのかは、本編を。