『〜物語』のすごさ
- 出版社/メーカー: 松竹
- 発売日: 2005/08/27
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ご存じ小津安二郎『東京物語』のリメイク。
『〜物語』を知らずに『〜家族』を観る人ってどのくらいいるのだろう。
多いのか少ないのかもわからない。
冒頭はすでにもう東京のシーンだ。
広島からおじいちゃんおばあちゃんがやってくるよ、っていう。
『〜物語』はまず広島のシーンで、「空気枕ありゃあせんですよ」みたいなところからだった。このシーンはラストと繋がっていてまあサンドイッチみたいなってるんだけど、『〜家族』は冒頭広島のシーンがないので、サンドイッチにはならない。
以下ネタバレあるので……
……というか『〜家族』は、おばあちゃんが亡くなってからようやく広島のシーンが始まる。で、島(という設定に変わってる)の人たちが初めて登場する。
島の人がおばあちゃんお遺骨見て悲しむのだけど、冒頭に広島のシーンがなく、サンドイッチになっていないので、悲しみが伝わりづらい。初登場だからね、この人たちはここで。
これ、まったく僕の想像でしかないのだけど、冒頭に広島のシーンがあったんじゃないかな? 撮影したかどうかはわからないけど、少なくともシナリオには。
『〜家族』は2時間半もあって、お目当てにしてる客層にはしんどい長さだ。これにもしも冒頭広島のシーンがあったとしたら、2時間40分とかになって、おじいちゃんおばあちゃんは来づらい。だからカットしたんじゃないかと推測するけど、どうだろう。全然知らないけど。
僕は『〜家族』を観て、『〜物語』の素晴らしさを改めて思った。
ラスト、原節子が笠智衆の前で泣くシーン。
原節子は笠智衆にとって、戦争で死んだ息子の妻だ。
東京への旅の間、そして妻が亡くなったあとも、家族には愛情がないように思える。だけど唯一、「いわば他人の」息子の妻だけが、しばらく家に残って笠智衆を気にかける。そこで形見の腕時計を渡され、原節子は泣き崩れる。
一方『〜家族』の方は、父(橋爪功)の末息子(妻夫木聡)とその彼女(蒼井優)だけが残る。末息子がいないところで、彼女が父に挨拶に行く。もう東京に帰りますと。で、父から形見の腕時計を渡し泣き崩れる。
僕は『〜家族』のこのシーンを観て、『〜物語』の凄さを思い知った。『〜物語』はこのシーンのために2時間以上の積み上げがあって、最後の涙に繋がる。小津安二郎と野田高梧の脚本は完璧だ。
『東京家族』は若い2人へ希望を託す前向きな映画だ。
でもそれ以上に、『東京物語』の価値をさらに上げる、前向きなリメイクだ。