『高貴なる殺人』、映画についてもレビュー
- 作者: ジョン・ル・カレ,宇野利泰
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1979/12
- メディア: 文庫
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ル・カレの中では異色作とされてる作品。
なにせ、スパイ小説の巨匠が書いた純ミステリーなのだ。
イギリスの田舎にある、名門パブリック・スクール(私立校)。教師の妻が凄惨な死を遂げる。被害者は事前に、自分が夫に殺されるという手紙を出していた。犯人は本当に夫なのか。捜査を依頼され老スパイ・スマイリーが、事件の真相を辿るべく町にやって来る。
スパイ小説家の異色作という触れ込みだけど、当時のル・カレにしてみれば、さほど異例な作品ではなかったはずだ。彼の1作目はスパイは出るものの、結局は殺人事件の犯人捜しで、ミステリー色が強かった。
そんな作家の第2作が、イギリスの伝統的ミステリーを彷彿とさせる内容だったしても不思議はない。
今、この本を手に入れるには古本で高値で買うしかないが、読んでみると違和感のないミステリーになっている。クリスティみたいな、田舎で起こった殺人事件で、登場するのは一癖二癖ある者ばかり。閉鎖的な学校、それに依存する教師たち、狭いコミュニティーの中で起こる殺人事件。スマイリーが出てこず、ル・カレの作品と知らされなければ、まったく普通のミステリーとして読むだろう。
明快な論理性と推理、二転三転するプロット、悲劇的な第2の殺人、ラストの衝撃などなど、読ませる要素はふんだんにある。
ただ、欲を言えば、やはりこのあとに控える『寒い国から帰ってきたスパイ』のような、人間それ自体を描くスパイ小説の完成度の高さから比べると、小品である感じは否めない。
さて、この作品は1991年にイギリスでテレビ映画化されている。日本でもビデオ化されていたので、中古VHSを買い、観てみた。
- 出版社/メーカー: 東北新社
- 発売日: 1993/05/07
- メディア: VHS
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そして、意外なことに、重要な生徒役で当時17歳のクリスチャン・ベールが出ている。若い。はじめ、どこかで観たなあと思っていて、あの鳥のような口の形でわかった。
さてこのテレビ映画、脚本もル・カレが手がけていて、セリフのやりとりはさがに上手い。小説よりもビシビシハマっている。
ただ、謎解きは小説版の方が優れている。容疑者である夫のカバンが、その時どこにあって誰が運んだのか、とか、中身に関することなどは、小説の方が読んでいて面白い。
映画の方は、カバンにまつわる推理などは端折っていて、終盤の真相がわかっていく過程なんかは面白さはあまりない。
それでもこの映画ならではの面白さがあって、犯人のバックグラウンドを、小説の方は触れているようないないような、曖昧なのだけど、映画はハッキリと犯人の問題点、過去のことなどをセリフにして出す。
↓ネタバレ気味なので範囲指定で見られるようにしてます。
きっぱり、俺は「ホモ」だと。
時代なんだろうか、もうそのシーン、「ホモ」「ホモ」と言い続け、すごいなあと逆に感心。この時代(1991年)はゲイという言葉は普及していなかったのだね。
それに、それを劇中打ち明けられているスマイリーを演じる、デンホルム・エリオット自体がバイセクシャルだったという、なんか、いろいろ入り組んだシーンだった。
でもまあ、そこをグイグイ押すことによって、犯人の性格描写ができていて、この映画最大の見せ場だろう。
原作を読んでいないと、取り残される可能性もあるので、映画は小説を読んだあとのお楽しみに取っておいた方がいい。