ル・カレ成功の秘密

寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)

寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)

ジョン・ル・カレ作品、全作制覇を目指して。その3。

第3作にして出世作『寒い国から帰ってきたスパイ』をこの機会に再読。アメリカ探偵作家クラブ賞、英国推理作家協会賞受賞の傑作だ。

のちのちの、スマイリー3部作に代表されるような、ネチネチ積み重ね系の物語ではないので、大変読みやすく、ル・カレ入門には最適。

1作目『死者にかかってきた電話』、2作目『高貴なる殺人』で芽が出なかったル・カレが、この本で一躍人気作家になった理由は、ミステリー的ひっくり返しがとても上手くいっている点。

それにもう1つ。こっちの方が重要だろう。本格的なスパイ小説を書いたのだ。前の2作にもスパイは出てくるのだけど、スパイよりもむしろミステリー的面白さを目指していた。

思うに、ル・カレは自分の職業でもあった諜報活動について、おおっぴらに書くことためらっていたんじゃないだろうか。それが、ミステリー的な1、2作目を出してみて、世間の評判がかんばしくないので、こうなったら! と、吹っ切れたんじゃなかろうか。

だから『寒い国から帰ってきたスパイ』はスパイのドキドキ感、ひっくり返し、そして非常性が、ふんだんにちりばめられて、すさまじく読ませる。

で、それまでの作品でもあった、犯人捜しやミステリー的展開が、そこに加わる。

ミステリーと、ル・カレが本職としていっていたスパイ部分の組み合わせは、食べ合わせとして最高だったんだろう。何度でも読み返せるマスターピース