映画『寒い国から帰ったスパイ』

寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)

寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)

ジョン・ル・カレ第3作『寒い国から帰ってきたスパイ』。
ル・カレの初期傑作にして入門に最適。小説の感想は↓
http://d.hatena.ne.jp/ys22ys/20140128/1390924615

しかし、小説も素晴らしいが、映画版『寒い国から帰ったスパイ』もいい(原作とはタイトルが微妙に違う)。

1965年に製作されたこの映画は、米国アカデミー主演男優賞を含め2部門にノミネートされたほか、本国英国アカデミー賞では作品賞含め4部門を受賞した。

原作に忠実な映画化になっていて、物語の面白さをそのまま描くことに成功している。

特にオープニングとエンディングの、東西ベルリンの国境シーンは白眉。ラストシーンの悲劇性は原作以上と言ってもいいくらいだ。

が、本作は昔の映画特有の、ちょっとタルいな、というところがある。主に会話シーンなのだけど、原作では緊張感を伴った先行き不安定さがよく表現されていたりするので、こういう風に、原作と映画を比べると、ル・カレの凄さがまたよくわかるので勉強になる。

ル・カレは単なる会話シーンでも緊張感を持って描けるし、なにより、これがこのあとどう繋がるのだろう、という風に期待を持たせられるのだ。

ちなみに、原作と映画の大きな違いとして、主人公リーマスが英国諜報部をクビになって図書館に勤めたあとの展開がある。ここでリズという女性と知り合うのだけど、原作では肉隊関係あり、映画ではないっぽい。

さらに、このあとある事件でリーマスは刑務所に入ってしまうのだけど、小説では、出所後、リーマスとリズはイギリスで会うことはない。一方映画では、リズは刑務所の前で彼を待っているのだ。

たしかに原作を読んでいて、いい仲になった彼女が、彼が刑期を終えて出てきたあとも、まったく彼と接点がないのはどうなんだろう、と思っていた。

映画版はそこをクリアにして、出所後、彼と彼女を出会わせることによってあとの展開に繋げている。あとの展開とは何か、というのは、小説および映画を観てのお楽しみ。

ちなみに映画版は、日本では1997年にVHSで出たきりで、中古で買うにしても7000円以上かかってしまう。

寒い国から帰ったスパイ【字幕版】 [VHS]

寒い国から帰ったスパイ【字幕版】 [VHS]

一方アメリカ。マニアックな映画を高品質・高特典で出すことで有名なクライテリオンからDVDとブルーレイが出ている。

http://www.amazon.com/Came-Cold-Criterion-Collection-Blu-ray/dp/B00DHN8GQ2/ref=sr_1_2?s=movies-tv&ie=UTF8&qid=1391009107&sr=1-2&keywords=The+Spy+Who+Came+in+from+the+Cold

日本のアマゾンで買うには1万円以上するが、アメリカのアマゾンで買う分には25ドルくらいで買える。

さらにさらに、ニコニコ動画には映画全編があがっている。すごい時代だ。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm20049783

ル・カレの映画は軒並み映画化される。『高貴なる殺人』『寒い国から帰ったスパイ』『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』『リトル・ドラマー・ガール』『ロシアハウス』『パナマの仕立屋』『ナイロビの蜂』……それに新作『誰よりも狙われた男』と『我らが背きし
者』。

どの話も、激しいストーリー展開、様々な人間ドラマ、ラストの衝撃がある。こう書くと、映画化したくなるのはよくわかる。