ル・カレ最大の難書

ドイツの小さな町〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ドイツの小さな町〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ジョン・ル・カレの長編第5作目『ドイツの小さな町』。
あまり、話題にならない作品。

デビュー作から数作は初期作品としてマニアは読むだろうし、大出世作『寒い国から帰ってきたスパイ』は必読の書だし、その後の『鏡の国の戦争』は映画にもなったし。

さらにこの『ドイツの小さな町』の後に『The Naive and Sentimental Lover』という未訳のラブストーリーがあるのだけど、まあ本当はこれが一番存在感のない一作なんだろうけど(評判も良くないらしい)。で、その後からはもう泣く子も黙るスマイリー3部作になる。

ちなみに本作はル・カレがここまで書いてきた作品の中で、初めて(!)ジョージ・スマイリーが登場しない。なのでやっぱり、最も注目されない作品なのだなあ。

で、読んだのだけど……ル・カレ最大の難書『パーフェクト・スパイ』を凌駕する読みづらさ。読みづらさというか、先へ進みづらさ。

在西ドイツのイギリス大使館員が失踪した。同時に、秘密文章らしきものも行方不明。それを、本国の外務省役人が捜査することに。おりしも西ドイツ国内では反イギリスの勢力が各地でデモを繰り広げ、暴徒化しつつあった。

というストーリーなんだけど、冒頭からずーっと会話ばかり。ストーリーは進まない。

『パーフェクト・スパイ』は過去と現在の時制がめまぐるしく変化して、手慣れた読書家でさえも今がどの時制なのかを見失い、プロの翻訳家ですら「拷問的」と言った比喩の多さに打ちのめされる。

でも本作は、ストーリーの進みの遅さ、延々説明されるドイツについて、主人公の希薄さ、脇役の没個性などもあり、正直、終盤までは相当キツかった。

しかし!

それでもル・カレ。積もり積もった物語が一気に吹き出す終盤の展開と、あまりにもル・カレ的と言っていいラストの深い寂寥は、やっぱりル・カレを読んで良かったという喜び、読書の楽しみを十分満たしてくれる。

注目されない一作だけど、