幻みたいな物語『優しい鬼』

今日は文化の日ということで、レアード・ハント邦訳2作目『優しい鬼』を読む。もう、最初の数ページでやられた。序章の美しさと残酷。

しかもこのすばらしい序章が本編とまったくからまないのに、ずっと読者の意識に残り続けるという、いかにもなレアード・ハントらしさ。

幾人もの視点で語られるし、時制も頻繁に飛ぶ。どんどん塗り重ねられていく物語の中から、次々と真実が見つかっていく。驚き、心が打たれた。

文章はきれいで読みやすいはずなのに、緊張感をもっていないとあっという間に見失ってしまう、幻みたいな物語。

圧倒的な語りの力と物語力は、ガルシア=マルケスを思い起こさせる。繊細な北米の『百年の孤独』。

「でも夜が明けるころになって、薄あかりのなかでクリオミーがほほえみ、うしろで足を引きずる音もやむと、これはたんに闇のなかで顔をクモの糸につっこみすぎたせいであたしのこころが幽霊になっただけだとわかった。」

優しい鬼

優しい鬼

↑ネタバレしてるのでレビューは読むべからず。あと、あとがきもいろいろ書いてあるので、注意。この本は何も情報なく読んだ方が絶対にいい。

ちなみに前作『インディアナインディアナ』は品切れ再版未定。中古で6000円近くする。文庫化しないかな?

インディアナ、インディアナ

インディアナ、インディアナ