マンガは戦争をとらえる

「凍りの掌」(こおりのて)というマンガがある。
作者は、おざわゆき。始め、自費出版で出した物が今、小池書院から出ている。

終戦後の、日本兵のシベリア抑留を描いている、心を打つマンガ。
今まで、戦争を描いてきたのは小説であり映画だったが、今やマンガの占める位置は大きい。

戦争をマンガで描いたもの、と聞いて一番に思い出すのは「はだしのゲン」(汐文社、中公文庫)だ。
毀誉褒貶あるものの、やはりこのマンガが日本人の戦争観に与えた影響ははかりしれない。
これを読んで戦争を肯定したり、美化する者はいないはずだ。

一方、海外ではピューリッツァー賞を受賞した傑作マンガ「マウス」(晶文社)が有名。
ナチスによるユダヤ人迫害を描いたこの作品は、ユダヤ人をネズミ、ドイツ人を猫にデフォルメして描き、マンガ界ならず衝撃を与えた。

戦争を描いたマンガとして、最近、日本で翻訳された「アランの戦争」(国書刊行会)も紛う事なき傑作。
これはほとんど戦闘シーンのない戦争マンガで、淡々と描かれる主人公アランの目を通した戦争が、
不思議な情緒を伴って描かれている。

そして「凍りの掌」だ。
父親のシベリア抑留を題材にしたこのマンガは、ともすれば愛嬌のあるかわいい絵柄なのだけど、
描かれている現実は非常に悲惨。なぜ、こんな目に遭わなければいけないのか、という、
当時のソ連と戦争に対する憤りが沸いてくる。

今日は8月6日。このあと、8月9日、そして15日がやって来る。
僕たち日本人にとって、夏というのは戦争を思い出す季節だ。
だけどそれもしだい薄れている。

こうやって薄れていく結果、いつしか日本も、また戦争に参加していく国になっていくのかもしれない。
なんであれ、戦争は悪、という考え方は、愚直だとか現実を見てないとか批判があるかもしれないが、
正直それでもいい。こんな悲惨なことが二度と起こらないなら、
その批判を甘んじて受け入れる。「凍りの掌」を読むとそう思う。

マンガというものは読みやすく、幅広い年齢が触れやすい。
だからこそ、戦争マンガというのは価値がある。
忘れられていく記憶を、再び現実に呼び起こすために、マンガは有効だし、そして強い。