名言

私は動かず、ものになるのかどうか分からない小説の仕事をし続けた。自分のことだけを考え、他のことをほとんど頭に入れずに、虚構の世界を作り上げていった。罪悪感は特になかった。毎日を徹底して身勝手に過ごし、自分の作品に対してのみ謙虚だった。世の中の動きと全く関係のないところで、自分のためだけに懸命に仕事をし、やめようと思わず、むしろのめり込んだ。喜びでさえあった。震災が起こらなくてもきっと同様だった。あの大震災は私の仕事にほとんどなんの変化ももたらさなかった。(田中慎弥