エピソードの面白さ

ストーリーを作る職業柄、というわけではないが、
面白いエピソードが好きだ。

例えば……

昭和の名人、8代目桂文楽。「黒門町の」という枕詞がついた人だ(黒門町に住んでいたから)。

この人は、自分の高座の前に必ず稽古をした。当たり前だろうというかもしれないが、すでに何百回とした話なのだし、これほどの大名人だ。それが必ず稽古をして高座にあがっていた。ところが。

その日、前日も同じ話をやったので、稽古をせずに高座にあがり、
そしてつまづいた。人物の名前が出てこない。客席がじっと自分を見つめている。

「台詞を忘れてしまいました。もう一度勉強し直して参ります」
そう言って高座を降り、それから2度とあがることはなかった。

落語界では有名すぎる話だけど、僕はこういうエピソードが好きだ。

落語研究会 八代目 桂文楽 全集 8枚組DVD

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