怖い短編集その14

犯罪

犯罪

外国文学の近年まれに見る傑作短編集『犯罪』。
海外で文学賞3冠、日本でも『このミス2012』で第2位。

今日本屋で奥付を見たら第8刷とあったので、売り上げもいいみたいだ。

本当に、いい本というのはトータルで素晴らしい。
まず装丁が目を引くし、帯の「紛れもない犯罪者。――ただの人だったのに」という文句もなかなかだ。本編の内容はもちろん、酒寄進一さんの翻訳もいい。

というわけで、ベストセラーになるには、なるだけの理由があるというわけだ。

さて本編については短い断章の積み重ねのような、シーンの連続のような、独特の文体が目に付く。そして感情を廃した淡々とした文章。犯罪者とその犯罪を題材とした短編集だけに、その文体が却って内容を際だたせる。

1話『フェーナー氏』は最後の1行がゾッとする。
2話『タナタ氏の茶碗』は日本人タナタ氏登場。残酷な展開と淡々した描写。
3話目『チェロ』は悲劇。だけど悲しさと優しさが書けている。
4話目『ハリネズミ』、5話目『幸運』、6話目『サマータイム』の逆転劇。
7話目『正当防衛』はけっこう好きな作品。謎の多い登場人物の怖さ。
8話目『緑』、9話目『棘』、10話目『愛情』は理解し得ない人間の怖さ。ちなみに『愛情』には佐川一政への言及も。
11話目『エチオピアの男』は、これをラストに持ってきたか! と読んだ人はみな思うはず。1番面白く、1番感動的な話を最後に持ってきて、グッとこさせる手際。この11話目で『犯罪』という本はすごく面白い本から、一生残る面白い本となった。

シーラッハの短編第2集『罪悪』については次回。

罪悪

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