夏の文庫フェア

8月10日の北海道新聞にいい記事が載っていた。見出しは……

夏の文庫フェア今昔 硬い、面倒 薄れる名作群 現代作家の『娯楽系』多く

夏になると、新潮、角川、集英社が夏の100冊と銘打ってフェアを行う。100冊を網羅した小冊子も出て、毎年恒例の楽しい行事だ。

ちなみに夏休みに入る前、僕が教えている学生たちに、夏の100冊を制覇したら、創作活動にも就職活動にも絶対有利だよ、と言った。面接で「今年、夏の100冊を全部読みました」と言えば一目置かれるに決まっている。

でも学生が、「じゃあ先生100冊買って下さい」と、いい切り返しをしてくれた。本当に買おうと思って新潮社のHPを見てみたら、その100冊に驚いた。僕が昔知っていた100冊と全然違う。

ここ数年に出た人気作が目白押し。売れそうな本をラインナップして、昔からの名作は消え、外国文学は13作だけ(かつては30作あった)。

これでいいのか。僕がかつて高校生の時、まだ本を読み始めの頃、何で本について勉強したかというと、新潮夏の100冊の小冊子だった。そこで、どんな作家がどんな本を書き、どういう評価を得ているのかを学んだ。

そして、今でも最も好きな作家、ポール・オースターという存在をここで知った。95年版新潮夏の100冊にはオースターの『幽霊たち』が入っていた、その紹介文にはこうある。

探偵ブルーが、ホワイトから依頼されたブラックという男の見張り……。探偵小説?哲学小説?80年代アメリカ文学の代表作

僕はこの文章に興味を持ち、『幽霊たち』を買って読んでオースターに生涯ハマっている。

夏の100冊は単なる売りたい本の羅列ではないはずだ。名作の見本市、新たなる世界の扉を開く、出版社冥利に尽きる企画のはずだ。

95年にあって13年にない海外作家の中には、アンデルセン、オースター、O・ヘンリー、カーソン、キング(『スタンド・バイ・ミー』!)、ゲーテサガンサリンジャー、スティーヴンソン、ツルゲーネフディケンズ、バック、フィッツジェラルド、ブロンテなどビッグネームが。

この夏、文学に興味を持って新潮夏の100冊を探す少年少女たちの、上に書いた作家との出会いの機会が1つ失われたことが悲しい。

幽霊たち (新潮文庫)

幽霊たち (新潮文庫)