『風立ちぬ』最高のシーン


宮崎駿最新作『風立ちぬ』。なんか、山がないとかラストがどうとか、いやいやすごい泣けるとか、様々な評判だけど……

1つ、本当に素晴らしいシーンがある。

主人公の二郎が、避暑地の宿に泊まっている。ある人が熱を出したと聞いたその夜。床(とこ)に入ってうつぶせのまま本を読んでいる。その時、廊下から足音が。二郎がこちら(画面の方)を見る。と、暗い廊下をタタタと走って行く看護婦の姿が映る。再び二郎の姿。廊下のドアが開き二郎が出てくる。

そう、二郎は自分の部屋にいて、廊下を走っていく姿は見ていない。でも、床に入っている二郎が足音に気がつきこちらを見たあとに挟まれる看護婦のカットで、まるで二郎がそれを見た(知った)かのように観客に錯覚させる。

すごいでしょこれ。

看護婦が廊下を走っていくのは熱を出したある人物の容態が良くないことを示していて、これは観客に与えられる情報だ。しかし、それだけ映すと説明的なカットになる。

二郎が足音に気づいて目を向けると看護婦が見えたように描く。このカットのつなぎによって、容態を心配する二郎の感情をも表現している。

うおお、これをあっさりやるすごいさ。すごいシーンほどあっさりやった方が際立つ好例。全体がどうこうより、このシーンだけで観た価値はあった。