スパイの弱点

寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)

寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)

最近ドハマりのジョン・ル・カレ。そういうわけで出世作『寒い国から帰ってきたスパイ』を読む。

アメリカ探偵作家クラブ賞、英国推理作家協会賞受賞の名作だ。

冷戦時、まだベルリンが東西に分断されていた頃。東ベルリンからスパイを逃がすという任務に失敗したイギリス諜報機関リーマス

職を追われ、酒におぼれた彼は、東側のスパイに目をつけられる。報酬と引き替えに情報提供しないかと。彼は、東側に下ることに同意する。

が、それはすべて計画のうちだった。

任務を帯びて、リーマスは東側に潜入するのだ。そのスリリングさ、サスペンス感。

東側の諜報員をおびき出すまでのしがない生活。そこで出会い、恋に落ちた女性の存在。スパイ活動のために、彼女と別れる非常さ。だけど、その思いは残り続け、それがリーマスの任務の穴となる……。

ル・カレの代表作、スマイリー3部作での主人公スマイリーもそうなのだけど、どんなに優秀な人間にも弱点が1つある。思えばスマイリーの宿敵・ソ連諜報部のカーラもまたそうだった(それは3部作の掉尾『スマイリーと仲間たち』で明かされる)。

あるいは、そう、グレアム・グリーンの『ヒューマン・ファクター』でも、2重スパイとなる理由はやはり主人公の弱点だった。

で、それらはいずれも女性なのだ。

NHKワシトン支局長・手嶋龍一と元外交官・佐藤優がスパイ小説について語っているものがあって、すごく面白いのだけど、ここでもスパイの弱点について触れている。
http://www.ryuichiteshima.com/archives/2007/a12chuko.php

佐藤
もう一つ、英国とロシアが似ているなあと感じるのは、家族をものすごく大切にするところ。

手嶋
なるほど、そうなのですか。

佐藤
インテリジェンスと関係ないように思えるかもしれませんが、ロシアでなぜ女性を使った工作に敏感かというと、もし愛し合うようになって子どもでもできたら、国家を取るか家族かという時の結論が明らかなんですね。まず、家族を取るだろうと。だから、非常に注意する。

手嶋
まさにヒューマン・ファクターですね。

『寒い国から帰ってきたスパイ』は、敵国に寝返ったと見せつつ任務を遂行する主人公のドキドキ感、二転三転するストーリー、そして永遠に文学史に刻まれるラストが素晴らしい。

ル・カレの作品の中では読みやすい方だし、入門には最適。

ヒューマン・ファクター』について
http://d.hatena.ne.jp/ys22ys/20131010/1381420096

スマイリー3部作その1『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』&映画化された『裏切りのサーカス』について
http://d.hatena.ne.jp/ys22ys/20130826/1377528542

スマイリー3部作その2『スクールボーイ閣下』について
http://d.hatena.ne.jp/ys22ys/20130919/1379602768

スマイリー3部作その3『スマイリーと仲間たち』について
http://d.hatena.ne.jp/ys22ys/20131016/1381930071