映画『鏡の国の戦争』

ル・カレの初期秀作『鏡の国の戦争』は、映画化されている。
監督は、『暴力脱獄』『狼たちの午後』の脚本を書いたフランク・ピアソン。これ実質の映画デビュー(その前にテレビドラマが数本)。

名脚本家の映画だからだろうか、ともかく、原作が語ろうとしていたことには関心がない。監督が描きたいことだけを描く、そういう映画だ。

原作では、3人目のスパイ・ライザーの東ドイツ潜入は、終章の悲劇の完成として描かれている。だから、そこに至るまでのプロセスが肝で、むしろ結果は、悲劇的な必然として、大きな輪の一部として存在する。

だけど、映画では、むしろそこなのだ。後半はほぼ全て、ライザーの潜入行。しかも原作では40歳くらいの中年から金髪の若者に設定を変えられ、途中に会う綺麗な女の子(しかも謎を秘めて)との逃避行といったおもむき。

まるで青春映画のよう(でもここら辺でかかる音楽はいい)。

そういう映画としてみれば、観られなくはないという映画。ただ、若き日のアンソニー・ホプキンス羊たちの沈黙など)が出てたりして、けっこういい演技をしている。

また、映画『裏切りのサーカス』にハマったファンにとって観るべき点があって、『裏切り〜』でトム・ハーディ演じるリッキー・ター像は、この映画の3人目のスパイ・ライザーを確実に参考にしている。

金髪で荒々しさもある、恋に落ちるうつろな青年像だ。