仁義なき脚本家

笠原和夫。『仁義なき戦い』などのシナリオを書いた、日本を代表する脚本家だ。
彼が収集した、ひたすらに面白いヤクザ列伝が『破滅の美学』。

太く短く生きた男たちの生き様と死に様が、壮烈、鮮烈。異常なまでの生き急ぎ感。そんな濃い内容を、名脚本家がリーダビリティー良くサクサク読ませるのだから、たまらない。

はじめ、徳間書店から出たものを、角川アウトロー文庫入りする際にコラムを増補して、2004年にちくま文庫入りしたが今は品切れだ。角川アウトロー版が中古で1000円くらいで買うことができるので、この幻冬舎版がオススメか。

僕はヤクザは嫌いだけど、『仁義なき戦い』は傑作だと思う。その影には、というか立役者はやはり脚本で、笠原和夫だ。

それが証拠に、笠原がかかわった『仁義なき戦い』から『頂上作戦』までは一点の曇りもない傑作だけど、そのあと、笠原が脚本を降りた『完結篇』はやはり精彩を欠いた。

笠原が調べた膨大な広島ヤクザ資料は、太田出版の『「仁義なき戦い」調査・取材録集成』に収録されている。

「仁義なき戦い」調査・取材録集成

「仁義なき戦い」調査・取材録集成

この本は今、中古で1万円超えだが、かなり読む価値がある。
(追記:ちなみに今はKindle板が定価で出てて、いい時代になったもんだ)映画の仁義シリーズを観てこの本を読むと、資料の膨大さだけでなく、まとめ方も勉強になる。それに、実際に起こった出来事をただまとめるだけでは映画にならないことがよくわかる。

笠原がいかにオリジナルのフィクションを入れたのか、それが映画作りになぜ必要なのか。

例えば、『仁義なき戦い 代理戦争』で創造された倉元猛(渡瀬恒彦)というキャラ。この若きヤクザがいるからこそ、物語が締まり、文字通り、ラストも彼がらみで締まる(閉幕する)。

まあ、思えば笠原仁義シリーズの本質は、戦いの中の若者像とも言える。

1作目は、ほぼ全員が、敗戦後の若き日本人だった。2作目の『広島死闘篇』は実質の主役と言える山中(北大路欣也)。3作目『代理戦争』は上記の通り渡瀬恒彦演じる一人の若者。4作目『頂上決戦』は対立によって生き生きとする若者たちと、なんと言っても野崎弘(小倉一郎)の犠牲になる若者像が印象的だった。

そんな仁義シリーズを語る上で欠かせない第一級史料の『調査・取材録集成』だけど、脚本家を目指す人、あるいは物書き業を志す人には、必読の部分がある。笠原和夫が仁義なきシリーズを書いている期間の日記が収録されているのだ。

それを読むと、実質1年に4作も書いた(!)笠原の激闘がよくわかる。脚本家の苦悩と執念、追い詰められる精神状態。

脚本を書くということは、どういうことなのか。