もしもWBCが脚本だったら

スポーツなんかでよく「筋書きのないドラマ」なんて常套句があるけれど、
昨日のWBCの決勝戦なんかはホントにまあ、そうでした。

で考えてみた。

もしもWBC日本代表が歩んだ道を、フィクションとして書いたとしたら、
シナリオ的にみたら、どう評価されるのか。

もちろん優勝決定を決める一打を放つのは、主役しかないので、イチローが打つのはOK。
延長戦にもつれ込みっていうのも悪くない。

というか、9回裏に韓国に追いつかれないであのまんま勝っていたら、
イチローは3安打猛打賞で一応ほめられて、やっぱり最後の試合は打ったよね的な評価で終わったはず。

そう思うと、最後の一打を放つ方がもちろんドラマチックに違いない。

それに、シナリオ的には主人公には挫折がないといけない。
だから、ずっと不振でいたのは正解。
やたらめったら打ちまくって、決勝戦でも試合を決めるヒットを打って、
やっぱりスゴいや、じゃ面白くない。

ずーっとダメで、それが最後に、最後の打席で決める。これがドラマ。

だから、イチローの前に川崎代打で凡退はシナリオ的に大正解。
あれで川崎が打ってヒーローじゃ(川崎選手には大変申し訳ないけど)シナリオ的には不出来なんだよね。

でも川崎は、前の試合で先発出場して大活躍していた。あれがいい。

勝戦10回表の代打の時に、しょぼい人が代打だと盛り上がらない。
前の試合もあんなに打ったのだから、今回も……っていう期待値が高くないといけないので、
前の試合の活躍は前フリとしてかなり有効だった。

ずっと控えだったけど、「毎試合ベンチで試合に出ていた」という燃えるコメントも効果大。
(でも代打で凡退だったけど……)

あ、そうだ、川崎は初球を打ち上げてフライだったので、あれは盛り上げ不足とか言われそう。
もっと粘ってピッチャー疲れさせて、それでも屈して凡退。次のイチローに託す、みたいなのが良かったのになあ。何が良かったのになあ、だかわからないけど。

あと注目すべきは、4番打者のケガとリタイア。これはいい。

4番打者と言っても、イチローほど主役じゃない重要な脇役が無念のケガ。で、チームも結束みたいな。
ベタだけど、ベタってのはつまりフィクション、シナリオ的ってことなんだよね。

ところが、

ケガした主砲に代わって緊急招集っていう熱いシチュエーションは良かったのに……
僕は広島ファンなので、ちょっとテンション落ちてますが……

村田がケガした5分後に、日本にいた栗原の緊急招集を決める。この早さがいい。

で、願わくば本当に直前に到着、いやむしろ予定通りに来なくて、ああ間に合わないでもギリギリ着たぜ代打栗原的なのがまあ、お約束ですな。えーと「スウィングガールズ」ですか? 見てませんが。ちなみにこのシチュエーションは僕もシナリオで使いましたが……。

しかし当たり前ですが、予定通りに栗原到着。
練習したりイチロー焼肉屋に連れて行ってもらったりして、準決勝アメリカ戦で代打で出て三振。

ま、これはいいんです。顔見せ的な。むしろここで大活躍するって手もあったんだけど。
つまり、最後のイチローの活躍はもう決まりなワケだから、栗原が決勝戦で大活躍でヒーローじゃあ、
シナリオ的におかしい。

脇役に主役とられちゃいました、ホレイショーが王を殺して先代の敵を討って自分も死ぬじゃおかしいでしょ。最後はやっぱりハムレットなわけで。

だから、決勝はイチローのためにあるわけで、その前の敵、アメリカ戦ではつまり別の人の活躍が必要。
なので、そこで栗原でも良かったんだけど、まあ三振。

で、

でで、

決勝の栗原。DH先発出場。いいです。舞台が整えられてます。

そして、ワンアウト満塁というとても美味しい場面。

えーと、

ゲッツー。

次の打席で代打出されて交代。

終わり。

エンドロール。

じゃダメなんです。

再度言いますが広島ファンです。栗原は広島の4番です。

シナリオでこういう登場人物出したら、余計だとか削れだとか言われます。
ひどいでしょ。ひどいんです。

しかし、ここに、そういう余計なってのは言い過ぎだけど、期待に反した登場人物が出てくる映画があります。

かのキューブリック監督作品「シャイニング」です。
まあ原作があってスティーブン・キングの小説なんで、もとはこっちなんですが、ともかく、

(以下ねたバレ)

黒人の老コックが出てきます。彼は、主人公に特殊能力(シャイニング)があることを知っています。シャイニングとは簡単に言うと、予言的な白昼夢を見る能力なんですが、実はその老コックもシャイニングを持っているという設定です。

で、主人公の少年は血塗られた歴史を持つホテルに乗っ取られてしまった父親(ジャック・ニコルソン)に追われて、母親もろとも殺されそうになります。少年と母親はバスルームに逃げ込み、ジャック・ニコルソンは斧でガンガン扉を壊して中へ入ろうと――と、その時、やって来ました老コック!

でも老コック、すぐにジャック・ニコルソンに殺されてしまいました。

終わり。

エンドロール。

あ、いやまだ映画は続くわけですが、

(ねたバレ終わり)

どうですか老コック。栗原でしょ。

何しに来たの? 助けないの? って。

だから栗原も「シャイニング」に出てれば成立したのかも?
なんだかよくわかりませんが。


あとなんだろう、シナリオ的には……っての。

ずっとスタンドにいた、前回の優勝監督であり世界的に著名であるあの方は……
シナリオにするなら……ロッキーのコーチみたいな感じですか?
最初のロッキーしか知らないのであのコーチがその後どうなるかは知りませんので言いません
でも一波乱必要とか言われるんでしょう、シナリオならプロデューサーに。

前回は誤審問題で窮地に立たされ、その逆境をはねのけ、ってのが実にシナリオなんですが、
今回はそれらしきものはなかったですね。残念。

韓国と5度当たるのは、あり得ないですね。面白くない。ちょっとダレた。
天下一武道会天津飯とばっか当たるなあっておかしいでしょ(※ドラゴンボール詳しくありません)。

でも予選ラウンドで当たって負けてるってのはいいよね。
それで決勝でもう一度当たって、そこで勝つ、みたいな流れならいい。
だからせいぜい2度か。

あとはもっと個性的なチームだね。
キューバの160キロ出すって左腕は良かった。キャラ立ってる。案外弱かったけど……。

それに匹敵するくらいの個性を持つチームとか選手とかほしかった。
やっぱり中南米とあたらないのがキツい。

ドミニカ、ベネズエラあたりに、岩喰って丸太ん棒で打ってボールを破壊するみたいな選手が……
いないよね。そんなことシナリオに書いたらボツになる。

最後はやっぱりヒロインかな。当たり前だけど不在なので、
シナリオの場合、恋愛要素入れたらちょっとした味付けになるから、なんかあればよかったけど、
まああるわけないよね。

敵チームの監督の娘(美人)と主人公が、敵味方ゆえに引き裂かれ、
中立である審判の粋な計らいによって、娘は死んだフリして埋葬され主人公を待つ。

決勝で勝ち、優勝した主人公が墓へやって来て、
娘の死が偽であることを手違いによって知らされず、思いあまって自分もその場で死んでしまい、
眠りから覚めた娘は、その悲劇ゆえに、自らもまた死を選ぶ……

もはや野球じゃないねコレ。