名言

「おまえはどこなんだ!」
 業を煮やした黒沢監督が怒り心頭で聞いてきました。
俳優座? 一体何を教えてるんだ!」
 悔しくて拳を握り締め、しまいには無性に腹が立ってきた。そんなにダメなら、他のヤツにやらせればいいじゃないか!

 ようやくOKが出たときは、午後3時を回っていました。刀を差したときは腰を落とし、足の裏で地面をするように歩く。洋物の舞台ばかりやっていた私は、着物に身を包み、かつらを着けただけでよし、としてしまっていたのです。とても勉強になりましたが、当時は素直に聞けたのか定かではありません。

 その7年後、黒沢監督から「用心棒」の出演依頼をいただいたときのこと。正直言ってありがたいというより、また絞られたらイヤだなという思いが先立ちました。あそこまでダメを連発した役者を呼ぶというのも、よく分からない。

そんなとき、監督が私を使う理由をどう考えているか、人づてに聞きました。
「7年前の仲代を覚えている。だから使うんだ」
仲代達矢「狂気と正気の狭間で」)