本格ってなに?

法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー (角川文庫)

法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー (角川文庫)

結局、角川から出ている本格ミステリ・アンソロジーシリーズを全部読んだ。

北村薫編→http://d.hatena.ne.jp/ys22ys/20130613/1371133042
有栖川有栖編→http://d.hatena.ne.jp/ys22ys/20130609/1370751193
山口雅也編は学生に貸したっきり返ってきてないことがわかり買い直したので、レビューはまた今度)

法月綸太郎編は、編者の趣味全開で、本格ミステリ・アンソロジーって言ってるのに、まっとうな「本格」は1本もないんじゃないかなあ?

つまり全編、まっとうじゃない、一癖も二癖もある作品ばかり。だからいい。

しょっぱな、ウディ・アレン『ミスター・ビッグ』は、おそらくミステリー史上最大の被害者。誰が「彼」を殺したのか。

2話目の小泉八雲『はかりごと』はもう本格でもなければ、見方によってはミステリーでもない。だけどこの切れ味と不気味さ。

3話目はノックス先生の『動機』。異様な犯行動機の作品として知られる作品。

4話目『消えた美人スター』のひっくり返し感は、「本格」が持ついい部分。

5話目『密室 もうひとつのフェントン・ワース・ミステリー』の驚くべき犯人像は、山口雅也編に収録されている某マンガと同じで読み比べると、犯人に至るまでのアプローチが面白いはず。

西村京太郎『白い殉教者』は流行作家らしい手慣れた文体が読みやすい。

クイーンのラジオドラマ戯曲『ニック・ザ・ナイフ』のひっくり返し爽快感が、本格の本格たるゆえん?

『誰がベイカーを殺したか』は、タイトルが示す問題とその答えが秀逸。

中西智明『一人じゃ死ねない』の叙述トリックは圧巻。ひねくれて読んでみたのだけど、悔しい、それには気づかなかった。必ず2回読む。

最後の章に入っている3作は、どれも読み応えのある作品で、『脱出経路』は傑作SF短編『リスの檻』を思い出させる閉塞感。

精神科医が書いた本物の診療記である『偽患者の経歴』は、ミステリーとして書かれたものではないけれど、語り口のうまさと真相の驚き。そこに至るまでの論理的謎解きは、ノンフィクションでありながらまさに本格ミステリー。

最後はボルヘス『死とコンパス』で締めて、このアンソロジーはミステリーというジャンルを軽々と飛び越えていく。