みんな異常
顔をなくした女―〈わたし〉探しの精神病理 (岩波現代文庫―社会)
- 作者: 大平健
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2005/11/16
- メディア: 文庫
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大平健『顔をなくした女』。精神科医が書いた、患者とのやりとり。なまじっかのフィクションよりよっぽど面白い話ばかりだ。
作者の筆さばきも読ませる。表題作「顔をなくした女」から……
「さて、冬の間は私の所へ通っていただくわけですが、今一番お困りのことは何でしょうね?」
と尋ねると、患者は、指の間から覗く瞼を軽く閉じると、低い声で
「実は、私、顔がないんです」
と言い、ゆっくりと、それまで顔を覆っていた両手を下ろしたのだった。
この本を読んでいて、ふと安部公房『砂の女』の一節を思い出した。
つまるところ、みんなそうなのだ。僕も自分を正常だとは思わない。
(百人に一人なんだってね、結局……)
(なんだって?)
(つまり、日本における精神分裂症患者の数は、百人に一人の率だって言うのさ。)
(それが、一体……?)
(ところが、盗癖を持った者も、やはり百人に一人らしいんだな……)
(一体、なんの話なんです?)
(男色が一パーセントなら、女の同性愛も、当然、一パーセントだ。それから、 放火癖が一パーセント、酒乱の傾向のあるのも一パーセント、精薄一パーセント、 色情狂一パーセント、誇大妄想一パーセント、詐欺常習犯一パーセント、不感症一パーセント、 テロリスト一パーセント、被害妄想一パーセント……)
(わけの分らん寝言はやめてほしいな。)
(まあ、落着いて聞きなさい。高所恐怖症、先端恐怖症、麻薬中毒、ヒステリー、殺人狂、 梅毒、白痴……各一パーセントとして、合計二十パーセント……この調子で、異常なケースを、 あと八十例、列挙できれば……むろん、出来るに決っているが……人間は百パーセント、 異常だということが、統計的に証明できたことになる。)
- 作者: 安部公房
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/03
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