これは確かに面白い

掏摸(スリ) (河出文庫)

掏摸(スリ) (河出文庫)

最近、珍しく日本の本ばかり読んでいる。
で、売れ線を行こうかなと思って、これ。

中村文則『掏摸』(スリ)。
書店でグイグイ押してる人気作。

確かにこれは面白い。スリの世界を克明に描くその筆力。ただでさえ上手い文章が、スリの世界というアウトサイダーな面と相まって、読ませる読ませる。

それに、なによりこれは、青春文学なのだ。

スリとしてしか生きていけない青年の生き様と、そこで出会う少年。やはり「何かプラス少年(少女)」というのは、物語に新たな展開を生み出し、ほのかな希望を与える(例えば『レオン』あるいはその元ネタ『グロリア』)。

かつて、芥川賞候補だったころ(のちに受賞したけれど)、大森&豊崎コンビの「メッタ斬り」の選評で、昔の純文学っぽいとか現代には合わないみたいないことを言われていた作者が、きっと様々な努力を積み重ねたのだろう、本作はエンターテイメント純文学といってもいいほどの傑作。彼の勝ちだ。