古典ミステリーと言えばこれ

樽【新訳版】 (創元推理文庫)

樽【新訳版】 (創元推理文庫)

古典中の古典、クロフツ『樽』が新訳で出たので読んでみた。

勉強不足で今まで読まずにいたけれど……と古典に対して思う人は多いはず。新訳ブームが訪れて久しいけれど、新訳されたから、というのは、古典を読むきっかけにピッタリ。

その恩恵にあずかっているし、新訳ブームは歓迎だ。

さて『樽』。ちょっとしたミステリー好きなら名前くらいは知っている。

今、この時代において『樽』を評価するポイントは、やはり緻密な展開だろう。樽に入れられた死体。誰が、なんのために。それを解いていく警官、弁護士、探偵と、様々入れ替わってストーリーが展開する。誰か一人、個性的な探偵役がいた方が読みやすいのだろうけどね。

しかし、各人がそれぞれ、イチイチ聞き込みをして、一つ一つ謎を解いていく過程は緻密そのもの。

今、何がわからないのか、何かがわかったところで、しかし整合性がとれないぞ、という探偵役の内面的な苦悩まですべて記述する丁寧さ。それでいてストーリーは英仏両国にまたがって進んでいく展開の面白さとスピーディーさ。

新訳のおかげだろう、古典を読む読みにくさはさほどなく、むしろストーリーの面白さを楽しめた。

有栖川有栖氏のミステリー愛あふれる解説も必読。