『彼女は存在しない』

彼女は存在しない (幻冬舎文庫)

彼女は存在しない (幻冬舎文庫)

本屋で前面に押し出され、売れているミステリー『彼女は存在しない』。

書店員オススメ、みたいな手書き帯が、否応なく期待を高める。
で、買った。読んだ。

売れているのだから(22刷!)売れるだけの理由はある。謎めいたタイトル、表紙の曖昧さ。かといって暗そうな感じでもない空の絵(写真?)。

で、やたら押してくる帯に、店によっては店員のポップ。ミステリー好きほど騙される、ラストの収束感! みたいな。

でも、「彼女は存在しない」というタイトルに隠されたトリックは、もっと面白くできたはずなのに、意外とあっさり。そういうトリックが可能ならば、もっと仕掛けや別の面白さも生み出せるはず。なんか、そこに至る別の面が冗長で、印象に残りづらい。

そのトリックのヒントとなる、やたら頻出する一昔前のテクノへの言及も、それ自体に面白さはさほどないので、わずらわしく感じてしまう。

電気グルーブ、オーブ、エイフェックス・ツインブライアン・イーノ……。

主人公がそれらが好きだという設定だけど、その設定自体に面白みがないというか、ただ伏線張ってるだけなので、その伏線で一度面白さがあって、でもまたラストで伏線だったんだよ、って二度美味しくしないと、単なる伏線でしかない。

ラストのアクロバティックさは最後にあるし、そこまですんなり読めるので、佳作という感じなのだろうけど、本屋でのイチオシ具合がこの本を読む前に過大評価させてしまっている。だから期待度の割には内容がイマイチ、となってしまっている。

流行の、書店員によるポップや、いかにも手書き風の帯は、ちゃんと満足度が高くないと、すぐ信じられなくなる。

今、様々な商品の、売り手側の宣伝文句を、僕たちは真に受けない。なのに書店の手書きポップをまだ(少しは)信用するのは、それが、商品を作ってる人ではなく、売る人の意見だからだ。つまり、ワインを作った業者ではなく、ソムリエの意見としてポップを見るからだろう。

ところが書店も今や大変で、商品を売らねばならない。22刷もしてたら書店にとってはいい商品だろうけど、ソムリエとしての信頼は失ってほしくないな。