本物の写真集

渡部雄吉写真集 「張り込み日記」 Stakeout Diary

渡部雄吉写真集 「張り込み日記」 Stakeout Diary

昭和33年、茨城県水戸市で発生したバラバラ殺人事件。東京在住の被害者、そして証拠品が東京の旅館のものだったため、茨城県警と警視庁が合同で捜査を行った。

渡部雄吉『張り込み日記』は、その捜査を行うベテラン刑事と若手刑事の2人に20日間に渡って同行し、密着した写真集。

とにかく、なんと言うか、すごい。

この写真集、映画みたいだ。ベテラン刑事と若手刑事という鉄板の組み合わせ。戦後復興期のエネルギーのある東京の姿。まるで黒澤明『野良犬』さながら(あるいは野村芳太郎『張り込み』)。

リアリティある実際の刑事の写真は、本当に格好いい。

茨城県警から派遣された25歳の若き刑事は、不慣れな東京で、経験したことのない大事件の捜査を行う緊張感と高揚感で、どの写真も目が血走り、緊張しっぱなし。

一方、警視庁のベテラン刑事は、聞き込みも手慣れたもので、相手の懐に入っていく。が、一瞬、本物の目つき、すべてを見抜くような鋭い眼光を見せたりする。だけど、自宅に帰れば良き父親で、捜査では見せない笑顔が印象的(まったく『野良犬』の志村喬だ)。

この素晴らしい写真集は、かつて雑誌『日本』に掲載されたきり長らく忘れ去られていた。その写真をイギリス人が手に入れ、フランスで写真集として出版され、世界的に評判となった。

今回、日本で発売されたのは、限定900部。版元売り切れ、古本で1万円越え、図書館でも置いてるところは少ないので貴重だ。価格は定価4500円と高いのだけど、すでにほとんど売ってる書店がないので、見つけたら即買いするべし。
(その後、増刷かかったようです)