カジノで106億スった男

熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録

熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録

2011年、大王製紙の創業一族3代目、当時会長職にあった井川意高が逮捕された。容疑は会社法違反(特別背任)。子会社から多額の金を個人的に融通させて、借金をなくそうとしていた。

借金の理由はカジノ。この人は、カジノで106億8000万円、失っていた。

この本は、今、受刑中の筆者が、収監前に書いたものだ。なぜ、こんなにも多額の金をカジノで失うことになったのか。その一部始終。

ともかく、異常なまでの賭博に対する金銭感覚。というか金銭感覚の欠如。数百万から数億までの金額が乱れ飛ぶ。

特に、マカオのカジノ特有のジャンケットという人間と出会ってからの転落ぶり。ジャンケットはカジノと利用者の仲介人で、ホテルや車の手配、家族の遊び相手など至れり尽くせりしてくれる。代わりにジャンケットは、客がカジノで使った金のいくらかをカジノ側からもらえる仕組みだ。

なによりすごいのは、ジャンケットがついた客は、カジノ側から借金ができて、ジャンケットが補償した金額だけ、貸し付けが行われる。だから、元手の種銭が尽きても、もう一勝負、もう一勝負と、ズルズル借金を重ね、勝負ができるのだ。

その間、ジャンケットは客のご機嫌を取り、どんどん深みにハマらせていく。

井川意高は金曜夜に東京を発ち飛行機でマカオへ向かい、日曜の夜までカジノで金を溶かしていき、帰りの機中で眠り、月曜の朝に出勤するということを続けていた。

この人、自分は至って普通のように書いているし、途中の章では華麗な芸能遍歴を綴り、あるいは会社でいかに自分が有能だったかを、隠しきれない思いで書いていたりする(でもさすが大企業の社長だっただけあって、説得力のあるビジネス書の一面もある)。

だけど、読んでいて思うのだけども、この人は、自分の感覚が一般とだいぶ違うことを”今でも”認識していないふしがある。

例えば、マカオのギャンブルにハマる前は自分は健全だったと語るところ……

2泊3日の初カジノでは、種銭の100万円は失ってしまってもいいと思っていた。

100万円だよ……。
また、最初はカジノに足繁く通うこともなかったことを証明しようとする記述……

大王製紙社長に就任するまでの私は、決して毎週のようにカジノへ通っていたわけではない。ゴールデンウィークや夏休み、正月休みや週末の連休を利用して、親しい人間数人と出かけていた程度だ。年間2〜3回、多くてもせいぜい年に5〜6回程度だったと思う。

普通、年2〜3回カジノに通うことが、多いのか少ないのかの判断ができていない。

なるべくしてなった事件、と言ってしまうのは簡単だけど、でもどうしてここまでなってしまったのか、その核心がこれ、という風に描いているわけではない。それは読んで想像するしかないのだけれど、何か人間の中に巣くう空虚感みたいなものを僕は感じた。

※ちなみに本の印税はすべて社会福祉事業に寄付されるとのこと。