シナリオ

安部公房の「制服」と「幽霊はここにいる」を読んだので、せっかくだから、同一文庫内の「どれい狩り」も読む。

調べたら、もうこの文庫は売ってないらしい。いい脚本が3つも手軽に読めるので、販売できるなら、した方がいいし、読めるなら、読んだ方がいい。

「どれい狩り」は他の2作に比べて笑いの要素が多い。しかもどこか狂ったような、ネジが外れかけているような、なんか怖い笑いだ。

終盤、その笑いは加速度的に増幅され、登場人物たちは次々とウェーとなる。

いきなり「ウェーとなる」なんて言われてもわからないと思うが、姿は人間にそっくりだが、世間から隔絶された孤島であるウェー島に生息するという謎の動物なのだが、このウェーなるものはすべて作り話で、本当は人間がウェーのマネをしているだけ、資産家の老人をだまして金を奪い取ろうとする詐欺師たちの計略なのだ。

「制服」での生者と死者、「幽霊はここにいる」での見えてる人間と見えない幽霊というのもやはりそうだったが、安部公房はふつうに存在しているものの真の姿をあぶり出すために、それと正反対のものを舞台上に提示する。その時、当たり前の価値観が揺らぎ初め、今まで信じていたものが、危うくなる。それが楽しくもあり、また怖くもある。安部公房という戯曲。