あられもない作者の解説

学校の12の怖い話

学校の12の怖い話

今年7月に出版された、拙著『学校の12の怖い話』。
6年3組が経験する、12ヶ月の怖い短編集だ。

2012年はきっと、初めて本を出した年てして記憶されると思う。

今年の締めくくりとして、自作解題。
あられもない作者の解説。第1話から順に……


4月『文字人間』主人公が朝読の本として読み始めたのは『学校の12の怖い話』という本。1話目から早くもメタ(入れ子細工)な展開。なおかつ、主人公が自ら、1話目を書くという話。本当は、直前まで1話目は別の話だった。『石の輪』という話で第5稿まで書いていたのだけど、新しく書き直した。『石の輪』は普通のホラーに思われたからだ。とにかく変わったものを書こうと、あえてメタな話にした。編集さんは前の話の方がいいと言っていたけど、そこはもう、押し切った。

5月『タイたん』
カナエは、夢の中に現れる女の子「タイたん」に、次第に支配されていく……というお話。企画書と一緒に出版社に送った1編。この話は面白いと編集さんに褒められた。他にも、出版後にけっこういろんな人に評価された作品。僕自身も、この話を書き終えた時、何かが見えた。阿刀田高の本の中で、短編集のいい並べ方を紹介していた。1番面白い話は2話目にしろという。僕はそれを信じて、この話を2話目にもってきた。

6月『一人多い』
発掘された古代遺跡に、社会見学で訪れた6年3組。だけど遺跡から出ると、クラスの人数が1人多くなっていた。かなり初期の段階で、ストーリーだけできていた作品。ところが、書くとなると意外と難しく、特にオチをどうするかが決まらずにずっと放置していた。結局、他の話をあえてボツにして、この話を書いた。裏山にある遺跡というのは、4月の話でボツにした『石の輪』のなごりだ。石の輪が裏山の遺跡で見つかったという設定だった。

7月『ノゾミゲーム』
転校した人気者のノゾミ。その寂しさを紛らわせるため、クラスのみんなは、あたかもノゾミがいるかのように振る舞い始める。だけどそれが次第にエスカレートしていき……。自分でもけっこう好きな話だ。わりと良くできたと感じる作品は、ストーリーがあるべきところにすんなり収まる。ノゾミゲームのオチなんかもやはりそうだ。映画監督の早川渉
氏に褒めてもらったので、なおさら好きになった作品。

8月『夏休み』
たしか3番目に書いた作品。12話の中で、語り口の違うものを入れたかった。この作品だけ他と違って特殊なのは、担任の千田先生の小学校時代の話という点。それを、クラスだよりに書かれている、という設定にしたので、ちょっと入り組んでいる。個人的にはアイちゃんの下りが気に入っている。

9月『満月の夜』
これが最後に書いた作品。ページ数を168ページにするために、やや長めだった9月の話を全カットして、別の短い作品を書いた。前の話は、少年野球チームが幽霊と対戦する話で、うーん実は大好きだった作品。だけど、1番好きなところからカットするというM・ナイト・シャマラン監督の言葉を信じて、あえてカットした。そうしたことで、結果的にこの短編集はページ数に収まり世に出たわけだ。内容は、ちょっと切ないホラーになっていて、短さもあってあえて恋愛要素を入れてみた。

10月『動物園』
学校の写生会で訪れた動物園。主人公はカラのオリの中に、不気味に光る目を見つける。これが最初に書いた作品。自分に小説が書けるかわからなかったけど、第1稿は2時間くらいで書き上がったので、意外やいけるか、と思った。だけどその後、人称を1人称や3人称に変えて書き直したり、けっこう試行錯誤した。もしかしたらこの話が一番丁寧に文章を書いているかもしれない。

11月『脚本』
個人的に気に入っている。自分のことが書いてある脚本、というテーマは今後もどんどん書いていきたい。今までの自分のことが脚本に書いてあったとき、先のページをめくれば未来の自分のことがわかるんじゃないか、というストーリーは映画やドラマの企画でけっこうあげたんだけど、採用されることは1度もなかった。だけど初! 小説でようやく日の目を見た。

12月『地獄サンタ』
タイトルだけ常に頭にあって、いつか書こうと思っていた。クリスマスの夜にやってくる、恐怖の地獄サンタ、というイメージは、ホラーにピッタリだと思っていた。この話は、単純に見せかけて、わりと複雑さを書いたつもりだけど、誰もそのことを言ってくれないので、不発だったのだろうか? ともあれ、某アイドルがこの本を読んでくれて、1番好きなのがこの話らしい。

1月『「お化け!」』
冬の屋上にやってきた少女は、そこで見えない怪物に出会ってしまう……。もうあと1日しか書く時間がなくて、なんとかアイデアをひねり出そうと、うんうん唸っていた時に、階段とその上にある暗いドアのイメージが浮かんだ。そこから話をふくらませて、なんとか1本の話にした。札幌にいる僕は、やはり暑い描写より寒い描写の方が得意らしい。

2月『儀式』
秘密の儀式を行う4人の少女。儀式を行い願いは叶うが、しだいにエスカレートしていき、自分たちにも歯止めが利かなくなる……。これもかなり後の方に書いた話。エスカレートというのがこの本のキーワードかもしれない。スティーヴン・ミルハウザーの短編に影響されて、「少女たちの儀式」というワードをもらった。自分としては、これを書けたことで、この本に胸を張れる。読んだ人はどう思うかわからないけど、僕は好きな1編。

3月『先生は魔女』
4月から始まり3月の話で終わるこの本。だけど季節は巡り、また4月になる。単なる短編集は書きたくなかった。自分なりに変化を持たせて、この本ならではの要素が欲しかった。3月にそれを出した。楽しんでもらえたら幸い。

『あとがき』
実は一番困ったのが、あとがき。けっこうボツになり、何度も書き直した。あとがきって意外と難しい……次作はなくてもいいかなあ、なんて思ったり。最後に、ボツになったあとがきから、一部抜粋して、この自作解題はおしまい。

実は僕も、小学校の時は六年三組でした。放課後、僕は友人と、視聴覚準備室に忍び込んだことがあります。そこにはいろんなゴミや本、雑誌が落ちていて、すごい汚さに驚きました。僕と友人は夕方になるまで、UFOや地底人について書かれた気味の悪い雑誌を読みました。どうして小学校の視聴覚準備室にあんな本や雑誌があったのかはわかりません。でも今から考えてみて怖く思うのは、教室の汚さや雑誌の内容ではないのです。どんなに思い出そうとしても、僕と友人がどうやって視聴覚準備室に入ったのか、そして出たのか、それがわからないのです。カギはきっとかかっていたでしょう。窓からだって無理に決まってます。じゃあ、どうやって? それにもう一つ。一緒にいた友人。それが誰なのか、いまだに思い出せないのです。