S・キング書き始めの1行(怖い短編集その20)

以前紹介した『ゴールデンボーイ』が春夏編。
そしてこの『スタンド・バイ・ミー』が秋冬編。短編集というより中編集だそうだ(キングの相変わらず面白い序文にそう書いてある)。

さてなんといってもこの本は『スタンド・バイ・ミー』。
映画化されて原作よりも有名になってしまった。

原作も映画も、少年時代の記憶を呼び起こす秀作だけど、
実はこの『スタンド・バイ・ミー』、最初の1行目がいい。

「何にもまして重要だという物事は、何にもまして口に出してはいいにくいものだ。」

うん、なかなかかっこいい。

そう思ったらスティーヴン・キングの書き出しは、どれもいいことに気がついた。試しに手近にある本を開いてみると……

「鼻持ちならん気取り屋のげす野郎め、というのがジャック・トランスのまず感じたことだった。」(『シャイニング』)

「言葉に尽くせぬこの恐怖、あれから二八年つきまとっているこの恐怖の――終息の時があるにしてもだ――そもそもの発端は、私の知るかぎり、大雨で増水した道路の側溝を流れていった新聞紙の小舟だった。」(『IT』)

IT〈1〉 (文春文庫)

IT〈1〉 (文春文庫)

「人生は――ただの肉体的な存在ではなく、ほんとうの意味での人生は――さまざまなときにはじまる。」(『ダーク・ハーフ』)

「釘が一本足りなくて、王国が滅びる――教義問答が言っていることは、せんじつめればつまりそれに尽きる」(『トミー・ノッカーズ』)

「なにいってんだい、アンディ・ビゼット。いま説明した権利のこと、わかった、だって? ふん、なんとアホらしいことをいって。」(『ドロレス・クレイボーン』)

なかでも僕が一番好きなのは、本を見なくても暗唱できる。

「黒衣の男は飄然と砂漠の彼方に立ち去った。ガンスリンガーはその後を追った。」(『ガンスリンガー』)

ガンスリンガー』はキングの大作、『暗黒の塔』シリーズの第1巻。
上の文章は角川書店の旧訳版。訳者は池央耿。ちなみに現在の新潮社版は、

「黒衣の男は砂漠の彼方へ逃げ去り、そのあとをガンスリンガーが追っていた。」

うーん、新潮社版より、旧角川版の方がかっこいい。

ガンスリンガー―暗黒の塔〈1〉 (角川文庫)

ガンスリンガー―暗黒の塔〈1〉 (角川文庫)